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「窃盗」減少から浮かぶ日本の犯罪背景【2015年5月6日】

窃盗事件が減っている。警察庁のまとめでは、昨年1年間の認知件数(暫定値)は前年に比べて8万件以上減り、90万件を下回って戦後最少を記録した。防犯カメラなど抑止インフラの充実で検挙率が高まり、「犯行を画策する者にとって、危険な橋になってきた」(捜査関係者)。一時、国内を席巻した「爆窃団」など外国人窃盗グループも沈静化しているという。“泥棒”の現状を探った。(中村翔樹)


■防犯カメラの効用

「ほんの10年前、ひったくりは『捕まえられない犯罪』の代表格だった」

警視庁の捜査幹部はそう苦笑する。被害者らが通報し、警察官が現場に到着するまでおよそ5分。犯人がバイクなどで逃走し、遺留物などもない場合は「ほとんどお手上げ状態」(同)だった。

ひったくりは窃盗の手口の一つで、この犯罪をどのように摘発するかが、長年の課題だった。潮目が変わったのは、防犯カメラの設置台数が充実してきた時期だ。

平成14年に新宿・歌舞伎町に、全国で初めて、地区全域に警察当局が運営する防犯カメラを設置。強盗や殺人などの凶悪犯の認知件数が12年と比べて3分の1に減少し、防犯効果が実証された。個人宅や公共施設などにも浸透し、現在、国内に300万台ほどがあるとされる。

ただ、防犯カメラのすべてが犯罪捜査に役立つほどのレベルではない。

捜査関係者によると、現在、警視庁は独自に約1000台の高性能カメラを所有。容疑者の顔や車両ナンバーなどをより鮮明に写すことが可能で、ひったくりのほか、強盗、強制わいせつ、放火などが連続発生した場合、現場に持ち込んで設置する。容疑者が逮捕されれば回収する方式だ。

昨年10月から新宿区や渋谷区などで約50件が相次いだひったくり事件では、警視庁捜査3課が邀撃(ようげき)のために置いた“自前”のカメラに、犯人の男が乗るバイクのナンバーが写っていたことが重要な手がかりになった。いずれも未明の時間帯の繁華街で起きており、そうした傾向に基づいて設置場所を選定したという。

■外国人窃盗グループも沈静化

警察庁によると、昨年1年間の全国の刑法犯認知件数(暫定値)は、前年比10万1900件(7・8%)減の121万2240件で、12年連続で減少した。なかでも窃盗犯は、8万3924件(8・6%)減の89万7309件にとどまって戦後最小になり、その減少分が全体の減少数の8割を占めた。

捜査関係者が要因の一つにあげるのは、中国系の窃盗グループ「爆窃団」を始めとした外国人窃盗グループの沈静化だ。

爆窃団は、貴金属店などの壁を油圧ジャッキや電気ドリルで破って侵入する手口で商品を盗む窃盗グループで、犯行後、すぐに帰国する「ヒット・アンド・アウェー」方式の代表格とされる。日本ではバブル経済に沸いた昭和60年代から平成10年ごろにかけて被害が続発した。

外国人窃盗グループをめぐっては、韓国籍の容疑者が凶器を携行して電車内でスリをする「武装韓国人すり団」も、都内を中心に10年ほど前から暗躍。だが、警視庁によると、都内の窃盗容疑での外国人の検挙人員は、17年の約1000人をピークに減少し、26年は800人を割った。最大勢力となる中国人の容疑者は17年に比べて約半分になっているという。

捜査関係者によると、爆窃団のメンバーの入国が都内で最後に確認されたのは25年12月末。男2人組で、都内や千葉県内の貴金属店などを見て回り、26年1月中旬に都内の証券会社に侵入したとして建造物侵入容疑で逮捕された。下見が目的だったとみられる。

捜査関係者は「空港などでの水際対策がすすみ、メンバーらが入国すれば即座に検知できるシステムも確立された。壁をぶち破るような派手な手口の窃盗を日本ですることは危険という認識が広まり、ターゲットから外れている可能性がある」と分析する。

■振り込め詐欺、不正送金に乗り換えの可能性

一方、窃盗犯が別の犯罪に乗り換えているのではないかという指摘もある。

乗り換え先として警察当局が警戒するのが、振り込め詐欺などの特殊詐欺だ。窃盗と同じく、他人の財物を狙う「財産犯」の1つで、昨年初めて詐欺全体の被害総額が窃盗を上回った。

警察庁幹部は、「ひったくりなどをしていた連中が、振り込め詐欺グループから『ローリスク・ハイリターンでもうかる』などとリクルートされ、グループに加わっている可能性は否定できない」とする。

国内では、ピッキングやサムターン回しといった不正解錠に強い部品への付け替えなども進んでいる。

また、通称「青パト」と呼ばれる「青色防犯パトロール車」の台数は年々増加。都内では700台以上が目を光らせ、地域の防犯ボランティアの数も1万人以上にのぼっている。

ただ、いまだに無施錠などが原因で、被害を許すケースも多いという。

捜査関係者は「基本的な対応の徹底で窃盗はもっと減らすことができる。自分で自分を守る意識を常に持って行動してほしい」としている。

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